新着|危険運転致死傷罪の改正とドラレコ解析の重要性
速度・飲酒の数値基準導入により、交通事故解析の重要性がさらに高まる可能性
危険運転致死傷罪の適用要件を見直す改正自動車運転処罰法が成立し、これまで判断が難しいとされてきた「高速度の運転」や「飲酒運転」について、一定の数値基準が設けられることとなりました。法務省も、危険運転致死傷罪の飲酒類型および高速度類型について、構成要件を明確化し、適切な運用を確保する観点から数値基準を設ける内容であると説明しています。
今回の改正では、高速度運転について、最高速度が60km/h以下の一般道路では「50km/h超過」、高速道路などでは「60km/h超過」が一つの基準とされています。また、飲酒運転については、呼気1リットル当たりのアルコール濃度0.5mg以上などが対象とされています。さらに、意図的にタイヤを滑らせるようなドリフト走行等も、新たに危険運転の類型に追加される内容とされています。
今回の改正により、交通事故では「事故直前に何km/hで走行していたのか」「制限速度に対して何km/h超過していたのか」「その速度条件下で危険を回避することが可能であったのか」といった点について、客観的な速度解析の重要性がこれまで以上に高まると考えられます。
もっとも、これらの数値基準を下回る場合であっても、危険運転致死傷罪の適用が直ちに否定されるわけではありません。基準を下回る速度であっても、「重大な交通の危険を回避することが著しく困難な高速度」と評価されるような運転により死傷事故を起こした場合には、同罪が適用される可能性があります。
この点は、交通事故解析の実務において非常に重要です。事故時の危険性は、単に速度計の数値だけで決まるものではありません。道路幅、見通し、交差点形状、歩行者や自転車の存在、夜間・雨天などの環境条件、制動開始時点、相手方との距離、衝突までの時間的余裕などによって、同じ速度であっても危険性の評価は大きく変わります。
そのため、今後の重大交通事故では、次のような点がより重要な争点になると考えられます。
- 事故直前の実速度は何km/hであったか
- 制限速度に対して何km/h超過していたか
- ブレーキ開始時点はいつか
- 衝突時の速度はどの程度か
- 相手方を発見してから衝突までの時間的余裕はどの程度か
- 通常の反応時間と制動距離を前提に、停止または回避が可能であったか
- 道路状況から見て、その速度が危険を回避することが著しく困難な高速度といえるか
- ドリフト走行、急旋回、急加速、蛇行など、通常走行とは異なる危険な車両挙動があったか
これらを検討するためには、ドライブレコーダー映像の解析が重要になります。映像に記録された停止線、横断歩道、車線境界線、路面標示、電柱、標識、建物などの固定物を基準にすることで、車両の移動距離や速度を推定できる場合があります。
また、映像のフレーム解析により、事故直前の車両位置、速度変化、ブレーキランプの点灯時点、相手車両や歩行者の出現時点、衝突時点などを時系列で整理することが可能です。これにより、単なる主観的な供述ではなく、映像に基づく客観的な事故状況の把握につながります。
さらに、EDR、いわゆるイベントデータレコーダーに記録された車速、アクセル操作、ブレーキ操作、シートベルト装着状況、衝突前後の車両挙動などが確認できる場合には、ドライブレコーダー映像と組み合わせることで、事故直前の運転状況をより具体的に検討することができます。
特に、速度が争点となる事故では、ドライブレコーダー映像、EDRデータ、現場調査、車両損傷状況を総合して検討することが重要です。たとえば、映像解析により事故前の速度を推定し、EDRデータによりブレーキ操作やアクセル操作を確認し、車両損傷状況から衝突速度や接触形態を検討することで、事故態様をより立体的に把握することができます。
また、2026年9月1日からは、生活道路における自動車の法定速度が、従来の時速60kmから時速30kmへ引き下げられます。警察庁は、主に地域住民の日常生活に利用される中央線等がない道路が対象になると説明しています。
この変更により、生活道路で発生した歩行者事故、自転車事故、出会い頭事故、住宅街での車両接触事故などでも、「事故当時の実速度」がこれまで以上に重要な意味を持つ可能性があります。標識による速度規制がない道路であっても、道路構造によっては法定速度30km/hが基準となるため、事故解析では、現場道路がどの速度規制に該当するのかという確認も重要になります。警視庁も、中央線や車両通行帯がある道路、構造上分離されている道路などは引き続き60km/hとなる場合があると説明しており、現場道路の構造確認も重要です。
今回の法改正は、危険運転致死傷罪の適用判断において、速度、飲酒、車両挙動といった客観的事実の重要性を高めるものといえます。一方で、数値基準を下回る場合でも、道路状況や事故態様によっては危険運転と評価される可能性があるため、単純に「基準未満だから問題ない」と判断することはできません。
交通事故において速度が争点となる場合、ドライブレコーダー映像は単なる記録映像ではなく、事故直前の車両挙動を検証するための重要な解析資料となります。
危険運転致死傷罪の適用が問題となる重大事故だけでなく、速度超過の有無、回避可能性、衝突位置、事故態様に争いがある交通事故についても、映像やデータに基づく専門的な解析が有効となる場合があります。
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